第九話 身の程知らずの大舞台

 夏休み一杯になったスケジュールをチョロ松とどのように片付けていったかお話しましょう。

 その当時はマネージャーやドライバーというものも付かない時代。チョロ松が入るステンレス製のゲージを備え付けた専用の車を私がひとりで運転しチョロ松と二人で全国各地のイベントお祭りに全て車で移動した。芸の披露はもちろん、依頼先への挨拶、現場での道具の運搬・セッティング・片付けまですべて私ひとりでやらなければいけなかった。可能な時は1日3ヵ所のイベントで4回の公演を行ったこともある。五反田のフィットネスクラブで午前中・午後と2回公演し、夕方中野サンプラザでのお祭りで1回、そして夜都内帝国ホテルのパーティに出演した。実は夕方の中野サンプラザでの出番待ちの時、たまたまホールでコンサートをやっていたジャニーズ事務所のトップアイドルマッチ(近藤真彦さん)が通りかけ「チョロ松くんと写真を撮らして欲しい」という一幕もあった。時には寝る時間もないぐらい移動したこともあった。名古屋でのイベントが夜の9時に終わり翌日のイベント先の宮城県牡鹿半島へ移動。イベントにギリギリ間に合う早朝の8時に到着し休む間もなく11時と14時の舞台、終わってすぐに翌日のイベント先に移動。しかし若さと勢いは怖いもので全く疲れを感じることはなかった。何よりその頃の忙しさは楽しくてしょうがなかった。そう言えば今でもよく憶えている話がある。CMの持つイメージは大きい。あるスーパーのイベント会場で舞台の準備をしていると店長が来られて一言「この道具はなんですか」店長、面白いことを言うなと思い「これはチョロ松が芸をする道具です」。すると店長は「えっ!チョロ松くんは芸をするの?ウォークマンを持って立っているだけではないの?」。ショーの時間というのはだいたい30分で設定されているのだが、「30分立っているだけでは間がもてないでしょう」と私は思ったが、店長はそう思っていたらしく、実は他の人からも同じ質問を受けることが多く、たいていの人は芸もせずにウォークマンを持っているだけと受け止めているのには驚かされた。

 それにしても夏休みは本当に飛びまわった。移動距離だけでも6,000キロ~7,000キロは走った。東京⇔関西方面だけでも5往復。
 そして夏休みの締めは8月21日~31日大阪の吉本興業梅田花月での11日間公演。梅田花月初、動物が舞台にあがるということで初日に記者会見も行なわれた。たくさんのマスコミの数に圧倒され徐々に緊張感が高まってくる。そして初舞台、私達の前に出演したのがあの「いくよ・くるよさん」だったことで、地に足が付いていない状態で出番を迎える。持ち時間は約15分。いざ舞台に出るが緊張がとれることなく時間は過ぎていく。そして、周防猿まわしの会の十八番芸「竹馬高乗り」はチョロ松とコンビを組んで一度も失敗したこのない芸であり絶対的に自信を持っていた。ところが私の動揺を見抜いたチョロ松はさぼってまじめにやろうとしない。竹馬高乗りの醍醐味は全長3m50cm以上もある竹馬をお猿さんが全て自分の力だけで立ててそしてバランスをとりながら一歩一歩登っていくところだ。しかしこの日は2mあたりまで登ったところから一歩も進もうとしない。何回かやり直すが同じ所で止まってしまう。「これは出来ないな」と諦めた私の気持ちをチョロ松に悟られてしまい最悪の結末になる。舞台袖のスタッフから「五郎さん時間です」の虚しい声、結局竹馬にチョロ松をのせて歩かせるだけになった。それでも袖に下がる時にお客様の拍手は鳴りやまなかった。お客様に救われたが申し訳ない気持ちで悔しくて情けなかった。「もしかしたら11日間出来ないかもしれない・・・。でもやめることも出来ない。」楽屋で悩み苦しんだが、「こんな時こそ練習しかない」と奮い立ち合間にステージを借り繰り返し稽古をした。チョロ松は完璧に成功してくれ「それでいいんだよ」と何度も確認しあった。「あとはチョロ松を信用するだけだ」という強い気持ちで2回目のステージへ臨み、一発で成功。大舞台という気負いからか、自分達の持っている以上のものを求めていたような気もする。その後は冷静になり自信も取り戻すことができたので失敗はなかった。しかし吉本興業という会社の芸人の荒い使い方には目の当たりにしてみると「さすが吉本」と感服させられる。吉本興業の仕事をもらっている11日間はチョロ松・五郎コンビは吉本の芸人として扱われる。というのは私は梅田花月に出演するだけぐらいに考えていたのだが、前日出番表が楽屋に貼られ(平日2回公演、土日3回公演)、更に1回目と2回目の出番の空いた時間や公演後や時には夜にいたってテレビ等の出演もさせられた。通常、周防さるまわしの会のギャラに含まれているのは舞台出演料のみでテレビ出演や取材は別料金なのだが吉本興業との契約では11日間すべて、そして朝から晩まで拘束されてしまい、こき使われる。でもお蔭様で瞬く間に有名になり女子高校生の追っかけ等も出てきたりして嬉しいこともありましたけど。

 最後に梅田花月でのこぼれ話がありますので紹介して九話を締めさせていただきます。梅田花月出演中に私達の出番のあとは「阪神・巨人さん」ということが結構多かったんです。ちょっと袖で勉強させてもらっていると必ずチョロ松の話をされるんです。「チョロ松の人気は凄いですね。でも凄いと言えばチョロ松くんのギャラ・・・。私達はこの舞台に立って1回3000円ですよ、チョロ松くんのギャラは100倍ですからね!!」と掴みのネタにしてくれました。私もギャラがいくらかは知らないんですけど・・・会社任せなので。