第五十七話 失敗も成功の内  

 「主役はお猿さん」という考え方が周防猿まわしの会の根っこにある。我々はそこから出発し、猿まわしの舞台を探ってきた。今回はその歩みの一端を紹介してみたい。

 河口湖、阿蘇両劇場ともに一回の公演時間は40分である。先代の会長村崎義正が阿蘇劇場オープンの時に決めたものであるが、長からず短からずお客様が集中して楽しめる理想的な40分であると思う。舞台は二組(お猿さん一頭、芸人一人でペアを組む)のコンビで行う。経験と実績が認められた「真打ち」、舞台経験は浅いが小猿との演技が際立つ「前座」が登場してそれぞれが任されたパーツを披露する。初期ははっきりと役割が分かれていた。

 その舞台構成が変わる転機がやってきた。ある日、河口湖の舞台を古川顧問が鑑賞していた。その日はくり松・かき松コンビとチョロ松・五郎コンビの舞台だった。まだまだつたなく、かわいらしい小猿・くり松の舞台に成猿のチョロ松が乱入するという構成の舞台だった。その舞台を見ていた古川顧問から「台本をしっかり作りこむことが必要不可欠だが、二組の舞台でもドラマを作ることが出来るんだね。」その古川顧問の感想がきっかけになり台本作りを目指すようになった。

 お猿さんが耀いてなんぼうの世界である。人間の芝居と違うのは、野生の猿である以上うまくいかないのは当然だということ。それさえも台本にしようという試みだ。調教師の思い通リに動かなくてもお猿さんが讃えられるそれが今の目標になっている。失敗も成功の内と言えたなら人もお猿さんもリラックして楽しい。また、小猿も大猿もかわいいし、キャスティング次第で台本が楽しくなる。ただし、立ち居振る舞いつまり、基本的な芸が整わないなら、目標の舞台は絵に書いた餅になる。お猿さんも調教師もここだけは真剣勝負で譲れない。型があっての型破りだ。さり気ない仕草に心が動く。そこから様々なドラマが生まれてくる。その可能性を古川顧問は指摘してくださったのだと思う。

 ちょうど時を同じくしてお客様からコンビ名は何故、人間(芸人)の名前が先なのか?という意見がでた。入門した当時から「五郎・チョロ松コンビ」として何の違和感も持たずにきたので、その指摘に感心した。「主役はお猿さん」なんだから「チョロ松・五郎コンビ」が正解であろうということで周防猿まわしの会も方針転換、それ以来、お猿さんの名前を先に表記することになった。だが、さらなる誤解があって両方ともお猿さんの名前だと勘違いしている方がたまにいらっしゃる。お客様がお猿さんに向かって「チョロ松!・・・五郎!・・・」と声をかけ、「五郎は私です。」というと会場は爆笑に包まれるのだ。