第五十一話 資格はあるのか・・・?

 お猿さん・・・我々にとってはニホンザルであるが、非常に不器用な動物である。自然界で暮らしているニホンザルを一度でも群れから離せば、元の群れに戻ることはできない。ひとたび、人の手で育てられると自然界に戻ることはこれも困難である。人は職業を選ぶことも変えることも選択の自由が与えられている。猿まわしの猿には自然界で生きるか人間界で生きるか選択の自由はない。


 阿蘇猿まわし劇場、河口湖猿まわし劇場と東西に劇場を構えことによって調教師(同時に芸人)の入門志願者も増えたがその反面去っていく者も多かった。調教師を続けて行くことは本当に厳しい。どんな仕事においても難しさはあるが、お猿さんと付き合うには言葉だけでなく心と心のつながりも重要なので、そもそも調教師を目指す者の人間性まで問われる。そんなニホンザルとともに長い時間をかけて絆を作り芸を育てて舞台に立てるようになるまでには地道でなくてはならないし辛抱が求められる。結局、挫折、人間関係のこじれが原因で調教師を断念する。

 去っていく者の理由も様々ではある。一番残念なのは調教師に従事するということはお猿さんありきの仕事であるはずだったのが、辞める時には一切相方であったお猿さんの存在は無視される。自分がいなくなると相方はどうなるのか心配するだろうが人間の都合だけで去っていくということがほとんどである。お猿さんは芸猿になった以上二度と自然に戻れない。だから、どん事情があろうとも残された芸猿は周防猿まわしの会で責任をもって面倒をみると決めている。相方を失った芸猿には可能なかぎり新しいパートナーを見つけ、引き続き舞台にたてるようにしているし、引退したお猿さんは生涯我々の手で飼育、引退後の生活を保証しノンビリゆっくり過ごしてもらっている。退社後、かつての相方を気づかい会いに来る調教師はほとんどいない。非常に残念であるけれど、十人に一人、果物を手に何度も相方のお猿さんに会いに来る方もいる。

 人間の都合で辞められるのはお猿さんにとっては本当に迷惑な話であり付き合う以上はもっと覚悟をもって欲しいと伝えている。覚悟があるかどうか見極めてコンビ結成が許される。そのため入門後でもすぐさまお猿さんに関わる仕事につけるわけではない。飼育はもちろん、部屋の掃除、餌やり、お猿さんに携わる全ての仕事には一切関わらせないのも、新人に自覚を育てたいからである。

 研修期間は朝から晩まで広大な劇場の敷地内をひたすら清掃してもらう。ここでコツコツとやれる者のみ次へのステップへ進める。その後、劇場スタッフの仕事を経て、最終テスト、最後のハードル越えは今や伝統的な儀式となっているが開演前の場内販売(主にペットボトルやコーヒーなどの販売)だ。10分足らずの短時間で30杯以上販売すれば合格となる。簡単なようで今まで一発合格者はいない。それに不合格だと次の試験のチャンスは一ヶ月後になる。先輩にもアドバイスをもらいながら売るための創意工夫を重ねるがチャンスをいかせるかは本人次第である。お客様の心を掴み、照れなく大勢の前で厚かましく、自分をさらけ出さない限り調教師としてのキップは掴めない。

お猿さんには選択の自由がないだけにそれに見合う我々でなくてはならない。