三十四話 シマヤ「めんつゆ」CMに出演

 芸術祭という舞台を終えて一息つく間もなくチョロ松と私には大きな目標があった。都内で開かれるお祭りに三日間連続で出演する。このお祭りは延べ20万人もの人出があるということであったが、出演料はなく、投げ銭(芸をみせてお客様からご祝儀を投げていただく)がギャラになる。当時乗りに乗っていた私の闘志に火がつき大道での記録更新を狙うつもりで出演した。毎回黒山の人だかり、嵐のような祭りだった。そしてこの時の記録は20年経った今でも破られていない
 日本はバブル時代の絶頂期であり勢いよく仕事が舞い込んでくる。1992年、チョロ松ジュニアに初のCMが決まった。周防猿まわしの会と同じく山口県に本社のある「シマヤ」からの出演依頼だった。夏向け商品である「めんつゆ」のCMである。私も子供の頃から「そうめんを食べるならシマヤのめんつゆじゃろ!」と思って食べたくらい馴染みのある商品だったので本当にうれしかった。しかも、当時、NHK朝の連ドラで脚光を浴びている女優羽田美智子さんとの共演である。
 織田信長扮する羽田美智子のもとへ木下藤吉郎扮したチョロ松が「つゆ」を届けるというシチュエーション。羽田美智子さんの「サル、つゆをもて」という台詞を受けてチョロ松がコミカルな動きで「つゆ」を届ける。撮影は京都の太秦映画村にて行われた。ただ今回は、共演者の羽田美智子さんが動物アレルギーということで事前にリハーサルすることが出来ず、ぶっつけ本番での撮影になった。それとチョロ松が縦横無尽に動きまわるのでタナ(猿をつないでいる紐のこと)の処理が難しく、タナがどうしても目立ってしまうのでかなり頑丈な釣糸を使用することになった。が、この釣糸も照明に反射してしまう。結局、撮影でよく使うピアノ線に行きついた。プロデューサーや映像担当者はかなり苦労すると覚悟していたようだが収録は順調に進み当初二日間予定のところわずか一日、しかも5時間で終了した。直後ビデオを見せてもらった。チョロ松ジュニアの軽妙でかわいい、小猿当時でしかだせない味がふんだんに盛り込まれた内容だったので初代チョロ松のCMに負けないくらいの反響を期待したが、夏限定のCMであり、放映は西日本に限られていた。しかし、故郷山口県を代表する商品のCMに出演させてもらい本当に感謝している。
 そして7月には池袋サンシャイン劇場にて芸術祭賞受賞記念公演、8月から9月にはアメリカ公演を行うこととなり、休む間もなく勢いに乗ってスケジュールをこなしていく。実はこの時、大きな落とし穴が待ち構えていた。猿まわしとは何か、自分の力はどれほどのものか自覚せざるおえないほどの挫折をあじあわされることになる。